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東京高等裁判所 平成5年(ネ)2569号 判決

控訴人

東京信用保証協会

右代表者理事

貫洞哲夫

右訴訟代理人弁護士

成富安信

上松正明

被控訴人

保坂利彦

右訴訟代理人弁護士

野田宗典

嶋田雅弘

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を東京地方裁判所に差し戻す。

事実及び理由

第一当事者双方の申立て

一控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金一〇一九万三二七二円及び内金一六一万三〇〇〇円に対する昭和六〇年二月一六日から、内金八五八万〇二七二円に対する昭和六〇年四月六日から各支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、原判決の「事実及び理由」の第二に摘示のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一被控訴人の本案前の抗弁について

1 確定した支払命令は、確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法四四三条)から、これと同一の請求権について更に給付を求める訴えには原則として訴えの利益はないが、消滅時効を中断する必要があり、裁判上の請求によらなければその目的を達することができないときは、時効中断のためにする再訴には訴えの利益があるものと解すべきである。

2  これを本件についてみるに、控訴人が昭和六二年九月一八日被控訴人に対し、本訴請求債権について支払命令の申立てをし、発せられた支払命令が同年一一月四日の経過により確定したことは当事者間に争いがない。本件記録によると、控訴人は、平成四年一〇月一六日被控訴人を債務者として足立簡易裁判所に対し、本訴請求債権について再度支払命令の申立てをし、同裁判所は、右申立てに基づき被控訴人に対して支払命令を発したこと、被控訴人が同年一一月二日右支払命令に対して異議を申し立てたため、右支払命令申立ては訴えの提起とみなされて、原審に本件訴訟事件として係属したことが認められる。

本訴請求にかかる債権は、訴外会社の訴外日興及び訴外王子に対する金銭消費貸借契約上の合計一四〇〇万円の債務につき、控訴人が訴外会社との間で、被控訴人を訴外会社の連帯保証人として、締結した信用保証委託契約に基づき、控訴人が訴外会社の連帯保証人として訴外日興及び訴外王子に弁済したことにより取得した被控訴人に対する求償金(連帯保証)債権である(当事者間に争いがない。)。右信用保証委託契約は訴外会社の営業のためにするものと推定される(商法五〇三条一項、二項)から、控訴人が訴外会社に対して取得した求償金債権は商法五二二条により、五年の短期消滅時効に服する債権である(最高裁判所昭和四二年一〇月六日第二小法廷判決・民集二一巻八号二〇五一頁)。連帯保証人に対する確定判決による時効中断の効果は主債務者にも及ぶ(民法四五八条、四三四条)が、確定判決により確定した権利は一〇年より短い時効期間の定めのある場合であってもその時効期間は一〇年とするとの効果(民法一七四条ノ二)は、当該判決の当事者間にのみ生じるものであり、当事者外の主債務者との関係においては、右確定判決はその時効期間について何らの影響はなく、その債権は依然として短期消滅時効に服するものと解される(大審院昭和二〇年九月一〇日判決・民集二四巻八二頁)。そして、連帯保証人は、主債務の消滅時効期間が経過したときは、その時効を援用することができ(大審院昭和八年一〇月一三日判決・民集一二巻二五二〇頁)、時効の援用により主債務が消滅したときは、民法四五八条、四三九条によりその債務を免れることができる。

したがって、控訴人の訴外会社に対する本件求償金債権は、前記支払命令が確定した日(昭和六二年一一月四日)から起算して五年の経過により時効により消滅することになるから、被控訴人は、右時効を援用することにより、被控訴人の右求償金債務に対する連帯保証債務を免れることができるものといえる。

3 弁論の全趣旨によると、控訴人が平成四年一〇月一六日に本件訴えを提起した(本件支払命令の申立て)のは、訴外会社に対する本件求償金債権の消滅時効を中断することにより被控訴人の連帯保証債務の時効を中断するためであること、訴外会社は被控訴人が代表取締役を勤める被控訴人の個人会社ともいうべきもので、資産もなく現在は休業中であることが認められる。右認定の事実によれば、被控訴人の連帯保証債務の時効中断のために、控訴人が訴外会社を相手方として訴えを提起しないで、被控訴人を相手方として訴えを提起したことは相当である。そうすると、控訴人は、本件訴えを提起するについて、訴えの利益があるといえる。被控訴人の本案前の抗弁は、理由がない。

二控訴人の本案請求について

控訴人は、本訴請求に係る請求原因事実は当事者間に全く争いがないから、民事訴訟法三八八条の規定を適用することなく、控訴人の請求を認容する判決を言い渡すべきであると主張して、最高裁判所及び大審院の判例(最高裁判所昭和五八年三月三一日第一小法廷判決・判例時報一〇七五号一一九頁、最高裁判所昭和三七年二月一五日第一小法廷判決・裁判集五八号六九五頁、最高裁判所昭和四九年九月二日第一小法廷判決・裁判集一一二号五一七頁、大審院昭和一〇年一二月一七日判決・民集一四巻二三号二〇五三頁、大審院昭和一五年八月三日判決・民集一九巻一六号一二八四頁)を引用する。しかしながら、右各判例は、本件とは事案を異にするものであって、本件に適切ではない。控訴人の右主張は、同条の法意に照らし、採用することができない。

三結論

以上によると、控訴人の本件訴えには訴えの利益がないとしてこれを却下した原判決は不当であるから、これを取り消した上、民事訴訟法三八八条を適用し、本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 櫻井文夫 裁判官 渡邉等 裁判官 柴田寛之)

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